TRASH VANGUARD
肥溜めの先駆者。(直訳) ペットボトルロケットでぶっとばせ!
ショートストーリー04


ロングラブレター(仮)

友達と弁当を食べ終わって、次の授業の宿題の続きをするために自分の席につく彼女。
そこに彼がやってくる。

「ちょっと相談あるんだけど、いい?」
「ん、いいけど、もしかしてお昼食べ終わるの待ってた?」
「まぁね」
「ちょっといい? って言ってくれればよかったのに」
「そんなに大事な相談ってわけじゃあないしね」
「…」
「ラブレターもらっちゃってさ、どうしたもんかなってとこ」
「…なんで私に相談すんの? 男子に相談すればいいじゃん」
「前さ、アイツ等にドッキリやられたんだよ。今回も実はドッキリなのに、また犯人に相談とか、かっこ悪すぎじゃん」
「…なんでそんなこというの?」
「…えっ、あ、だって名前書いてないし、ほら前も書いてなかったし」
「え?」
「名前が書いてあればドッキリじゃないってわかるんだけどさー」
「え、あ、名前が書いてあってもドッキリかもしれないよ。勝手に名前使われてるだけかもしれないし、ほら」
「あ、そっか…」
「って、ごめん、フォローになってないね」
「名前だけじゃなくて、待ち合わせの時間も書いてないんだよね」
「え、ホント?」
「さすがに場所は書いてるあるけどね」
「あ、じゃあ、ずっと待たせておいて遠くから見て笑ってるつもりなのかも」
「…それをドッキリって言うんじゃないかな」
「そだね、ごめん…」
「まぁ、俺も最初からドッキリだと思ってたからいいけど、サンキュ」
「違うよ」
「え?」
「あ、ドッキリじゃないんじゃないかなー、って思っただけ」
「だといいんだけどなー」
「待ち合わせ、行くの?」
「とりあえず、ね。もしドッキリじゃなかったらいまどきラブレターなんて恥ずかしいことを俺のために頑張ってくれた女の子がかわいそうだから」
「…」
「時間書いてないけど、放課後あたりが妥当かな」
「そうだね」
「でも、昼休みかもしれないよね」
「告白は放課後って相場が決まってるんじゃない?」
「そっか、よくわかんないけど」
「ま、頑張って」
「おう、気が楽になったよ」

待ち合わせ場所は、教室から見下ろせる、下駄箱から少し離れたところにある木の下
人が少なくなってから1時間くらい彼は待っているが、まったく女の子がやってくる気配はなかった。
そのとき下駄箱から彼女がやってくる。

「やっ」
「よっ」
「まだいるってことは、来てないってことだよね」
「そういうことになるかな」
「どれくらい待った?」
「そろそろ1時間かな」
「結構待ったんだね」
「まぁね、どうせ暇だからいいんだけど」
「あ、負け惜しみだ」
「まぁね」
「ドッキリ大成功〜って誰か来た?」
「いや、誰も来ないよ」
「そっか、1時間も待たせるなんて、ドッキリにしては悪質だね」
「そうだな、少し度が過ぎてるな」
「だよね、ちょっと酷いよね…」
「…って、そんな深刻にならなくていいって。どうせ暇だしさ」
「だ、だよね。1時間ずっと腕組んで待ってるくらい暇なんだもんね」
「え、見てたん?」
「あ、うん…」
「待ち合わせ場所って、教えたっけ」
「うぅん。教室からボーっと眺めてたらボーっと突っ立ってたから」
「そっか、教室から見えてたのか。ドッキリにはぴったりなスポットだな」
「誰も窓の外なんか見てなかったよ。男子はいそいで部活に行ってたみたいだし」
「そっか、それじゃあ別の場所から見てたのかもな」
「部活中だよ、抜け出せなさそうじゃん」
「そうだな、部活中かもな」
「ま、私は今日サボったんだけど」
「そんなんじゃエースの座はとれねぇぞ」
「私は野球部かよ」
「ははは」

彼はうつむいて笑いながらポケットから受け取った名前のないラブレターを出す。彼女はそれを複雑な面持ちで見ている。

「…あのさ、きっと、ドッキリとかじゃなくてさ、恥ずかしくなってやっぱり来れなくなっちゃったんだよ」
「まぁ、それは振られたってことだな」
「そうじゃないよ」
「まぁ、待ち合わせの場所になぜか見知らぬ女の子がついてたら、恥ずかしくなくても出てこれないな」
「あはは、そうかもね」

笑いながらもその場を離れようとしない彼女に、少し彼は不思議そうな表情をする。

「じゃあさー、やっぱり振られたんだよ、うん」
「そっか、俺振られちまったのか」
「ま、元気だしなよ」

彼女は、彼が握り締めたままの名前のないラブレターを奪う。

「お、おい、何すんだよ!」
「いいじゃん、出すだけ出して来なかったんだから。このラブレターはもう時間切れ」
「まぁ、そうだけどさ」
「いいよ、なんか食べ行こ。おごるからさ」
「…ありがと、でも今日はそういう気分じゃないからパス、しとくよ…」
「そっか、ごめん。そういう気分じゃないよね」

沈黙が流れて、彼は荷物を手に取り校門へ向けて歩き出す。そのあとを1メートルくらいあけて彼女がついていく。

「…これってさ、急に恥ずかしくなってやっぱりいけなかったけど、俺のことを好きって思ってくれてる女の子がいたんだ、って思ってていいのかなー」
「…いいんじゃない?」
「そっか、…今日はいろいろ迷惑かけてごめんな」
「別に迷惑じゃなかったし、謝らなくていいよ」
「わかった、じゃあ、ありがと」
「…じゃあ、私こっちだから」
「おう、また明日な」

校門を出て、坂を上っていく彼女と、坂を下りていく彼。最後に彼女は振り返って、笑いながら「元気だしなよー」と彼に言う。 彼はそれに手を振って応える。そして、彼女はさっき彼の手から取った名前のないラブレターを破く。


かみひこうき、とんだ(仮)

 虫の声すらほとんど聞こえない山道を歩いていく。夏だというのに、もう落ち葉が積もっていて、踏み込むたびにカサカサと小気味よい音が響いた。 これはこれでなかなかいいもんだ、と思った。足音と、ポケットに突っ込んだMP3プレイヤーから流れる音楽だけが耳に入っている。 ラジオの方が好きだったが、今ごろそんな我侭を言っても仕方がない、イヤホンから溢れてくる歌は誰の歌だったか、 とにかくずっと前に転送しておいた曲だということは確かな気がした。
 もう少しこのまま歩いていくと、海に面した丘に出る。そこはいつだって、少しだけ潮を含んだ、とても涼しい風に支配されていた。 唐突に、暑いと思った。もちろん急に暑くなったとかそういうわけではなく、ずっと暑かったわけだけど。
「やっぱりここにいたんだ」
 海に臨む丘にはすでに先客がいて、海に向かって紙飛行機を今にも飛ばそうとしていた。思わずぷっ、と笑ってしまう。
「高いところから投げた方が飛距離がでそうじゃん」
 彼女はこっちを振り向くこともなく応えて、手を離した。放たれた紙飛行機はぐんぐん真っ直ぐ飛んで、そしてある地点を境にそのまま真下へと落ちた。 そして、もう見えない。
「まだ空気抵抗が大きいんじゃない?」
「うーん、そうかも、でもこれ以上小さくすると滞空時間が下がって、飛距離落ちちゃうよ」
「難しいんだね、飛距離の方は」
「タイムだって難しいと思うよ、ジロー君たちもだいぶストレス溜まってたみたいだったもん」
「やっぱり紙飛行機はスタンダードなのに限るって」
 ポケットから小さな紙飛行機を出して、海の方へ飛ばす。長方形の紙がありさえすれば、誰にだって作れる、グローバルスタンダードな紙飛行機。 その名も大和号。大和号は、彼女の飛行機が飛んだ軌跡のだいぶ下を通って、すぐに見えなくなった。
「何メートル?」
「えっと、大体8メートルくらいじゃないかな、高低差アリで」
「ふぅん、さっきのは?」
「20メートルくらい」
「じゃあ俺、予選落ちだな」
「うん、もっと本気でやらないと無理」
「やらないけどね」
 新しい紙に、黒のサインペンでSOSと書いた。そして、折る。
「また何か書いてる?」
「おう、恥ずかしいマイポエムをな。偶然拾った人があざけ笑うこと請け合いだ」
「ふぅん、あとで拾いに行こうっと。あざけ笑ってあげるね」
「無理だよ、だって、ほら」
 言いながら、投げる。今度はスタンダードな折り方じゃなくて、トシキに教えてもらった特製の折り方だった。
「あ」
 彼女が少しだけ声をあげて、飛んでいった紙飛行機を目で追った。紙飛行機は、何度か回りながら、それでも高度をあまり落とすことなく、海の方へくるくる飛んでいた。それでも2分もしないうちに、海に落ちてしまったけど。
「すごいね、ジロー君の?」
「いや、トシキの方。6分24秒だってさ」
「それくらい飛べればインターハイだって行けたのにね」
「いや、インターハイに出たって、上には上がいたよ」
「そっかぁ、私なんかじゃ無理な気がしてきたよ」
「はは、まぁ、やってみなきゃわかんなかったよ」
「そだね、私も恥ずかしいマイポエム書いたりする方に転向しようかな」
「意外と面白いぞ、ほら、サインペン」
 彼女はサインペンを受け取ると、なにやら書き始める。俺の書いた短いアルファベット3文字とは対照的に、長い文章のように見えた。
「まさかラブレターとか書かないよな」
「え、あ、あははー」
 彼女は顔を真っ赤にして紙をくしゃくしゃに丸めた。図星だったのかもしれない。
「図星かよ」
「だって、ロマンチックだと思わない?」
「使い古されてるっつーの」
「いいじゃん、普遍的にロマンチックだよ?」
「だいたい受け取ってくれる人がいねぇよ」
「いいじゃん、届いたかも、しれないじゃん」
 言いながら少し、詰まった。何かが彼女を嗚咽させたのだろう。きっと、西川先輩のことだろうな、と勝手に考えていた。からかわなければよかった、と思った。
「そうだな、せっかくだから投げとけよ」
「うん」
 丸めた紙を広げて、また続きを書いている。ようやく書き終わったと思うと、丁寧に紙飛行機を作る。 さっきまで折っていたオリジナルの形状じゃなくて、スタンダードなものだった。 一度くしゃくしゃになってしまったから、きっと真っ直ぐは飛ばないんだろうな、と思ったけど、何も言わなかった。
 彼女は手を離して、飛ばす。案の定、さっきの俺の飛行機よりも飛ばずに、落ちた。 きれいにしわをのばさなかったのもまずかったな、と墜落したあとに思った。飛行機を飛ばす彼女の手には元気がないように見えた。
「飯まだ食ってないだろ?」
「あ、うん。昨日から食べてないや」
「缶詰が大量に見つかったから、やるよ、あとでうちに取りにこいよ」
「まだ缶詰とかあったんだ」
「セブンイレブンの倉庫に箱ごと残ってた。賞味期限はまだまだあると思う、ま、いざとなったら気にしてらんないけどな」
「うん、じゃああとで取りに行くね」
 俺はもう一度、紙にSOSと書いて、折った。SOSと書いて、祈った。紙飛行機は風に乗って飛んでいった。 落ちるかと思ったら、風が吹いて、ふわりと浮かんで、そしてまた落ちた。
「今のは何メートルだ?」
「10メートルくらい」
「さっきよりはマシだな」
「うん、風も少しだけ出てきたしね」
「誰かに届けばいいんだけどな」
「うん」

 太陽光を反射したままの海を背景に、立ったままの彼女はきれいだと思った。 また前より水位が上がってるなと気付いたけれど、このまま海に飲み込まれてしまっても、それも俺たちらしくっていいんじゃないかと思った。