友達と弁当を食べ終わって、次の授業の宿題の続きをするために自分の席につく彼女。
そこに彼がやってくる。
「ちょっと相談あるんだけど、いい?」
「ん、いいけど、もしかしてお昼食べ終わるの待ってた?」
「まぁね」
「ちょっといい? って言ってくれればよかったのに」
「そんなに大事な相談ってわけじゃあないしね」
「…」
「ラブレターもらっちゃってさ、どうしたもんかなってとこ」
「…なんで私に相談すんの? 男子に相談すればいいじゃん」
「前さ、アイツ等にドッキリやられたんだよ。今回も実はドッキリなのに、また犯人に相談とか、かっこ悪すぎじゃん」
「…なんでそんなこというの?」
「…えっ、あ、だって名前書いてないし、ほら前も書いてなかったし」
「え?」
「名前が書いてあればドッキリじゃないってわかるんだけどさー」
「え、あ、名前が書いてあってもドッキリかもしれないよ。勝手に名前使われてるだけかもしれないし、ほら」
「あ、そっか…」
「って、ごめん、フォローになってないね」
「名前だけじゃなくて、待ち合わせの時間も書いてないんだよね」
「え、ホント?」
「さすがに場所は書いてるあるけどね」
「あ、じゃあ、ずっと待たせておいて遠くから見て笑ってるつもりなのかも」
「…それをドッキリって言うんじゃないかな」
「そだね、ごめん…」
「まぁ、俺も最初からドッキリだと思ってたからいいけど、サンキュ」
「違うよ」
「え?」
「あ、ドッキリじゃないんじゃないかなー、って思っただけ」
「だといいんだけどなー」
「待ち合わせ、行くの?」
「とりあえず、ね。もしドッキリじゃなかったらいまどきラブレターなんて恥ずかしいことを俺のために頑張ってくれた女の子がかわいそうだから」
「…」
「時間書いてないけど、放課後あたりが妥当かな」
「そうだね」
「でも、昼休みかもしれないよね」
「告白は放課後って相場が決まってるんじゃない?」
「そっか、よくわかんないけど」
「ま、頑張って」
「おう、気が楽になったよ」
待ち合わせ場所は、教室から見下ろせる、下駄箱から少し離れたところにある木の下
人が少なくなってから1時間くらい彼は待っているが、まったく女の子がやってくる気配はなかった。
そのとき下駄箱から彼女がやってくる。
「やっ」
「よっ」
「まだいるってことは、来てないってことだよね」
「そういうことになるかな」
「どれくらい待った?」
「そろそろ1時間かな」
「結構待ったんだね」
「まぁね、どうせ暇だからいいんだけど」
「あ、負け惜しみだ」
「まぁね」
「ドッキリ大成功〜って誰か来た?」
「いや、誰も来ないよ」
「そっか、1時間も待たせるなんて、ドッキリにしては悪質だね」
「そうだな、少し度が過ぎてるな」
「だよね、ちょっと酷いよね…」
「…って、そんな深刻にならなくていいって。どうせ暇だしさ」
「だ、だよね。1時間ずっと腕組んで待ってるくらい暇なんだもんね」
「え、見てたん?」
「あ、うん…」
「待ち合わせ場所って、教えたっけ」
「うぅん。教室からボーっと眺めてたらボーっと突っ立ってたから」
「そっか、教室から見えてたのか。ドッキリにはぴったりなスポットだな」
「誰も窓の外なんか見てなかったよ。男子はいそいで部活に行ってたみたいだし」
「そっか、それじゃあ別の場所から見てたのかもな」
「部活中だよ、抜け出せなさそうじゃん」
「そうだな、部活中かもな」
「ま、私は今日サボったんだけど」
「そんなんじゃエースの座はとれねぇぞ」
「私は野球部かよ」
「ははは」
彼はうつむいて笑いながらポケットから受け取った名前のないラブレターを出す。彼女はそれを複雑な面持ちで見ている。
「…あのさ、きっと、ドッキリとかじゃなくてさ、恥ずかしくなってやっぱり来れなくなっちゃったんだよ」
「まぁ、それは振られたってことだな」
「そうじゃないよ」
「まぁ、待ち合わせの場所になぜか見知らぬ女の子がついてたら、恥ずかしくなくても出てこれないな」
「あはは、そうかもね」
笑いながらもその場を離れようとしない彼女に、少し彼は不思議そうな表情をする。
「じゃあさー、やっぱり振られたんだよ、うん」
「そっか、俺振られちまったのか」
「ま、元気だしなよ」
彼女は、彼が握り締めたままの名前のないラブレターを奪う。
「お、おい、何すんだよ!」
「いいじゃん、出すだけ出して来なかったんだから。このラブレターはもう時間切れ」
「まぁ、そうだけどさ」
「いいよ、なんか食べ行こ。おごるからさ」
「…ありがと、でも今日はそういう気分じゃないからパス、しとくよ…」
「そっか、ごめん。そういう気分じゃないよね」
沈黙が流れて、彼は荷物を手に取り校門へ向けて歩き出す。そのあとを1メートルくらいあけて彼女がついていく。
「…これってさ、急に恥ずかしくなってやっぱりいけなかったけど、俺のことを好きって思ってくれてる女の子がいたんだ、って思ってていいのかなー」
「…いいんじゃない?」
「そっか、…今日はいろいろ迷惑かけてごめんな」
「別に迷惑じゃなかったし、謝らなくていいよ」
「わかった、じゃあ、ありがと」
「…じゃあ、私こっちだから」
「おう、また明日な」
校門を出て、坂を上っていく彼女と、坂を下りていく彼。最後に彼女は振り返って、笑いながら「元気だしなよー」と彼に言う。
彼はそれに手を振って応える。そして、彼女はさっき彼の手から取った名前のないラブレターを破く。