銀色リトマス紙
2002年 4月
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4月1日
今日はエイプリルフール。日本語で言うと四月バカ。
バイトに行くと「鈴木宗男が暗殺されたそうですよ」と優に言われたので、
「あー知ってる知ってる、FBIだろ?」と返しておいた。我ながら情けない返答だ。
来週の土日に花見会場の警備員のバイトをすることになった。
中年男フリーターにとって、時給900円は魅力だと思う。
警備と言ったって、普通に座って桜を見ておけば良いだけだ。ただ酒を飲んだりしてはいけないだけだ。
どうせ俺は酒に弱いのでちょうどいい。
しかし、花見から酒を取ったら何が残るのだろう。
4月2日
山本には彼女がいるそうだ。若いのに羨ましい。
俺が高校のころといったら友達とバカやってるばっかりで、そういう話はまったくなかった気がする。
時代が変わったからだろうか、それとも俺がただモテなくて山本がモテるだけだろうか。
しかし実は最近上手くいってないそうで、少しぼやいていた。
うんうん頷いていたら、いつのまにか優が話に入ってきた。
お姉さんヅラしてアドバイスをする優は、いつもより少し可愛く見えた。
4月3日
電車に乗ってやけに制服を着た女子高生が少ないな、と思ったら
中学や高校ではちょうど春休みのようだ。
人口密度が低くて、ゆったりと座ることができた。
いつも休みなら良いのに、と学生諸君たちは思っているかもしれないが、それは俺も同じだ。
いつも休みならゆったり座れて良いのに、と本気で思う。
4月4日
マツモトが、珍しく職場にカメラを持ってきていた。
本人曰く、ウン万円もするもので最近やっと買えたらしい。
最近買ったにしては古そうだな、と感想を言ったら、最近は中古の方が流行ってるんですよ、と言われた。
やはり俺は流行についていってないのだろうか。嘆かわしいことだ。
ちなみに店長曰く、服やカメラは中古でも良いが、女は新品が良いらしい。
それを聞いた優がぷーっと頬を膨らませて何か文句を言っていたがよく覚えていない。
やっぱり店長は下品だと思う。
4月5日
今日から3日間警備のバイトをすることになっている。
花見会場の警備ということだが、もう桜は散り始めていて、
そんなに人も来ないだろうと思っていたらどうやら甘かったようだ。
そうだ、サラリーマンのおっさんやOLのおばさんってのは桜を見に来てるんじゃなくて、
酒を飲んで騒ぎに来ているだけだということを忘れていた。
初日から暴れて隣の団体に絡んだ係長さん(勝手に決定)を取り押さえた。
あと二日も残っているかと思うと、俺もどこかの団体に混じって酒を飲みたい気分だ。飲めないけど。
4月6日
なんとも面白い団体を発見した。
こういうときは無礼講だとでも思ったのだろうか、すっかり出来上がった吉本さん(仮名)が、
近くに座っていた上司(年齢の差と頭のテカり具合から勝手に推測)の谷山さん(仮名)の頭(限りなくクロに近いクロ)を
ピシピシ叩いて「カツラだろー、これカツラだろー」と叫んでいた。とりあえず合掌しておく。
カツラといえば、一度だけカツラが風に飛ばされる決定的瞬間を目撃したことがある。
ちょうど春一番のころだったから今くらいか、少し前くらいの時期だろう。
なんというか、実際目撃してみるとあれは芸術だったと思う。
風の音と共に空に舞うカツラ。なんとも形容しがたい美しさがあった。
もう二度とそんな機会はないんだろうな、と思うと少しさびしい気もする。
4月7日
いい感じに雨が降ったので、バイトは行かなくても良いとのこと。
バイト代が1日分減ったのは少し痛いが、警備員の仕事は(精神的に)疲れるだけで割りに合わないので結果的に良かったと言える。
することもないので、コンビニに行って休憩中のマツモトと話した。
カメラは見せてもらったけど、肝心の作品を見せてもらってない、と言ったら
現像したら見せる、と約束してくれた。
夜になると雨に濡れながら、優と山本が一緒にやってきた。
偶然そこで出会ったから一緒にきただけだ、と優は否定したが、どうも怪しい。
彼氏がいるんじゃなかったのか?
4月8日
一気に電車の中の女子高生の割合が増えた。
別に女子高生が増えること自体は悪くはなく、むしろ良いことなのかもしれないが、
座れる確率が下がることは間違いなく悪いことだ。
ちょっと頭が薄くなったオジサンが、「この人、痴漢です」と手をつかまれて叫ばれていた。
現場を見るのは初めてだった。
オジサンと女子高生は次の駅で降りた。駅長室にでも連れていかれるのだろう。
もちろんそういう変態行為をするオジサンが悪いわけだが、
もしオジサンが無実で、犯人が別の人だったりしたらあのオジサンはかわいそうだ。
無実の罪でつかまって、職場や家庭に報告が行って、
最悪の場合リストラとか離婚とかさせられて、そして女子高生に復讐を企てようとするのだろう。
ああ、やっぱり一番かわいそうなのは女子高生だ。とりあえず冥福を祈る。
4月9日
優が無断欠席した。珍しい。
もしかしたらこの間、山本と一緒に来ていたのが何か関係があるのか!?
彼氏にバレて大変なことに!?などと邪推してみる。
マツモトにも俺の名推理を聞かせる。
すると、沢村さん(優の苗字)かわいいですもんね、と一言。おい、俺の名推理はどうした。
しかし店長曰く、実はとっくに欠勤の電話が入っていたそうで、
ただの風邪とのことだった。名推理なんて披露するんじゃなかった。
4月10日
山本と2人きりになってしまったので、仕方なくこの間のことに探りを入れた。
一応山本も何もなかった、と否定していたので、もしかしたら本当に何もなかったのかもしれない。
しかし、こんなに気にするようになってしまったということは、
俺は優に恋をしているのだろうか。いやまさかそんなはずはない、彼氏がいるのは周知の事実だし。
4月11日
なんか結構有名なポテトチップスが一気に6種類の味を新発売した。
個人的にはバーベキュー味は美味しいと思うが、チーズ味は大失敗だと思う。
でも、店長や優やマツモトは例によってうまい、と言う。
俺だけ味覚が変なのだろうか。
山本は俺と同じで否定派のようだった。もしかしたら案外良いヤツかもしれない。
4月12日
橋を自転車で渡っていたら、なんだかやけに渋滞していた。
自転車が渋滞に巻き込まれるはずはないので普通に進んでいたら、橋の出口にパトカーが何台もいた。
どうやらこれが渋滞の原因のようだ。
突っ立っていた警察官に何かあったんですか、と尋ねたら
何も言わずにジロッと睨んだ。あんなのが税金をむさぼっているのだと思うとなんだかいやだ。
とりあえずすべての警察官は笑顔の練習をするべきだと思う。
マックを見習え、スマイルは0円であるべきだ。
4月13日
昨日の警察官がやけに気になったので、
新聞で何か事件でもあったのか調べてみたが何にも書いていなかった。
そうだ、きっとあの事件は公にしてはまずい事件なのだろう。
そういえば、市内には刑務所がある。
そこから凶悪犯が逃げ出したのだ。しかしそれを知らせてしまっては一般人が恐怖で外を歩けなくなってしまう。
秘密裏に捜査を進めるのは警察の苦肉の策なのだ。頑張れ、税金泥棒。
とりあえずこれからは合いかぎを植木鉢の下に隠すのは止めようと思う。
4月14日
近くの私立高校の前でばったり山本と遭遇した。
怪しいと思っていたが、どうやら本当は現役高校生だったらしい。
日曜なのに模試なんて大変だな、と言ったら受験生ですからと言われた。
隣にいたのがどうやら山本の彼女だろう。
茶色い髪が肩までかかっていて、派手な雰囲気の女の子だ。
山本には悪いがあまり可愛いとは思わなかった。
しかし前に山本から聞いた話だとモーニング娘。の誰かをおとなしくした感じ、ということだったが
全然おとなしそうには見えなかった。
4月15日
今日は早く目が覚めたのでなんとなく散歩をしようとすると、新聞配達の学生とばったり会った。
初対面ではなかったのだが、なんとなく気まずかったので、いつもいつもご苦労様です、と他人行儀な挨拶をした。
あっちはきっと俺みたいなプータローにはなりたくない、と思ったんだろうなと思った。
五時前の空気はまだ冷たかった。
いつも見かけるカップルたちがいなかったので、公園のベンチで時間を潰していると朝焼けを拝むことができた。
綺麗な朝焼けだったので写真に収めたいと思った。
今度、マツモトにいろいろ教えてもらうことにしよう。
4月16日
また夢を見た。
このあいだと同じでバトルロワイアルによく似た夢だった。
おそらく、前回の続きだろう。
ただ、このあいだよりみんなの顔がはっきりとわかったし、血生臭い匂いもした。
目が覚めて嫌な気分になった。
テレビで乳幼児殺人事件を見て、もっと嫌な気分になった。
4月17日
優に、最近元気がないですよ、と言われたので、
そんなことねぇよ、と頭を小突いてやった。
そういえば最近、優の彼氏のことを全然聞かない。
もしかしたら別れてしまったのだろうか、と考えるのは虫が良すぎると思う。
4月18日
弟の借りている部屋に初めて行った。
弟が俺よりも綺麗好きで、掃除好きということもあるかもしれないが、
俺の部屋よりはるかに綺麗だった。
仕送りも六万もらっているとのことだった。
俺のときは五万しかもらえなかったのに、なんたる差別であろうか。
何にせよ、いくら私立とは言え医学部であることは確かなので、それを考慮すると仕方ないかもしれない。
これから俺も弟に金をせびりにこれば良いだけのことだ。ビバ弟。
帰るときに、玄関に弟と女のツーショット写真を見つけた。
いつからだ、と尋ねたら今月に入ってからだと答えた。なかなか可愛い人だと思った。
4月19日
山本と二人きりになったので、山本の彼女がモーニング娘。の誰かとはあまり似てなかった、と文句を言ったら、
それは一つ前の彼女のことですよ、と笑いながら言われた。
この歳で一体何人の女性と付き合ったのだろうか。
いつか誰かに恨まれて刺されることはないのだろうか。
もし刺されたりしたら、やっぱり俺のところにもインタビューが来るのだろうか。
そして俺はレポーターに、人当たりの良いヤツだったが男女関係は複雑だった、と答えるのだ。
そしてそれを見た犯人が、俺が山本と仲が良いと勘違いし、俺にまで逆恨みしてしまい、
そして俺は刺された挙句、東京湾に投げ捨てられるのだ。
山本が刺されなければ良いと本気で思った。
4月20日
久々にミカから電話が来た。
いつも掛けるのはこっちからだったので、なんだか嬉しかった。
何でも、しつこく迫ってくる上司がいて困っているらしい。
ハゲのくせに、と何度も毒づいていた。
うちの家系はハゲの家系じゃないので、ハゲだけは大丈夫だろう。一安心だ。
より戻そうよ、と言いそうになったがなんとか留まった。
企業勤めのミカと、フリーターの俺ではつりあわないような気がした。
4月22日
朝からやることもなく暇だったので、
押し入れに入っていたダンボールをまさぐることにした。
大学のころのノートやら、昔よく聞いてたCDやらいろいろなものに混じって、
カセットテープが一本見つかった。
おそらく中身は高校のころにやっていたバンドのオリジナル曲だろう。
しかし、何故高校のころの持ち物がこっちにあるのだろう。
聞いてみたいけど聞きたくない複雑な気分だったが、
この部屋にはカセットテープを聞ける環境がないので後ろ髪を引かれつつあきらめることにした。
それにしても、あのころのメンバーたちは元気だろうか。
4月23日
優はオフの日だったが、優の彼氏が外からじっと中を見つめていた。
優は休みですよ、と言おうと近づいたら、いきなり走って逃げた。
一体なんだったのだろうか。
4月24日
マツモトに、俺もカメラ欲しいな、と話すと
昔のカメラなら安く売りますよ、と言ってくれた。
若いのに譲ると言わないで売ると言うところが、しっかりしてて良いと思った。
良いカメラなのか聞いたら、そこそこ良いカメラなんだそうだ。
詳しい解説いりますか、と言われたので、遠慮しておいた。
ついでにカセットデッキを持ってないか、と聞くと、
ポータブルなら探せばあるかもしれない、と言ったので貸してくれと頼んだ。
なんか今日の有島さんって、積極的ですね、と言われた。余計なお世話だと思った。
4月25日
彼氏が来ていたことを優に話すと、優は少ししかめっ面をして、別れたんだと言った。
いつ別れたのかと聞いたら、二週間ほど前に、だそうだ。
と言うことは、この間見たときにはもうすでに別れていたということだ。
彼氏はまだ未練があるんじゃない、と言ったら
あんなに無責任な人は嫌い、と言った。
もしあの男に、俺が優とこんな風に話しているのを見られたらどう思うのだろうか。
少し悪寒がした。
4月26日
マツモトから借りたソニーのウォークマンでカセットテープを聞いた。
演奏は稚拙だし、歌詞はクサイし、やっぱり痛いなぁ、と思ったが、メロディは結構好きだった。
そういえば、作詞をしたヤツは覚えているが、作曲をしたのは誰だっただろうか。
ちなみにへたくそなベースを弾いていたのが俺だったはずだ。
4月28日
せっかくカメラを買っても、フィルムがないと何もできないので
ちょっと遠出して買い物にでかけると、優と山本を見かけた。
一緒に歩いていて声をかけづらかったので素通りしたが、ただの友達同士と考えて良いのだろうか。
もしかしたら前の彼氏と別れた原因は、山本だったりはしないのだろうか。
少し面白くなってきたと思うが、そういうことを考える自分が少し不謹慎だとも思った。
とりあえず24枚撮りの3本セットを買った。
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