[m] べ、べつにこの本が面白いってわけじゃないんだから勘違いしないでよね2009 小説編 10冊
ギリギリ1月中にほんとは間に合ってないんだけど間に合ったフリしちゃうんだからねセカ徒歩的2009年推薦図書・小説編。今回もマンガ編と同じように10冊選んでみました。ちなみに前回のマンガ編10冊はここらへん

ルールは前回と同じで、2009年とか言いつつ発売日には特にこだわってないうえに、このブログを本格的にはじめた2008年10月あたりから俺が読んだ本の中からざくっと選んでおります。一応ひとりの作者からは一作品に留めておきました。じゃないとあまりに偏ってしまうのですよ。

感想とかブログにメモってるのでコピペすればいいやとか思ったら、すっごく適当に書いてたせいであんまり再利用できなくて結局書き直すハメになりました。もっと楽なはずだったのに! あと遅くなったのは、これを書くために多少読み返したりしてたせいもあるんですよ! そんな感じでいきますよ、「べ、べつにこの本が面白いってわけじゃないんだから勘違いしないでよね2009 小説編 10冊」。みなさまの読書ライフに一抹でも貢献できますように!




 

1/2の騎士 / 初野 晴

青春ミステリーというジャンルにおいては初野晴と米澤穂信が双璧だと思う、だって誰か偉い人もそう言ってたし。辻村深月が次点かなあ。

普通の犬を殺すだけでは飽き足らず盲導犬を飼い主の目の前で殺すようになった「ドッグキラー」、女の子の部屋に侵入して部屋に狡猾な罠を仕掛ける「インベイジョン」、毒花による無差別生物テロルを計画する「ラフレシア」、人の善意を巧みに操って誘拐して灰にしてしまう「グレイマン」。都市伝説で噂されている4人のむなくそよろしくない異常犯罪者が何の因果か集ってしまった地方都市を守ろうとするひとりの女子高生マドカと騎士サファイアの一年間のおはなし。ノベルス版の表紙とそのタイトルからファンタジーかと思ってあとまわしにしてたんだけど、ぜんぜんそんなことはなくてもっとはやく読むべきだった。つい最近文庫版が出たので敬遠してた人もぜひ、って思ったのだけどこれ600ページ超えてるのね。

ほかの「退出ゲーム」「初恋ソムリエ」のシリーズ(こっちもだいぶオススメ、退出ゲームは特に)でもそうなんだけど、この人の話って主人公格の男女が恋仲になれないような仕掛けが用意されてて絶妙だと思うんだけど、それでもマドカを守るために別の何かを犠牲にする騎士も甲斐甲斐しいし、秋から冬にかけて寒くなるにつれて弱っていく騎士に心を痛めるマドカも読んでて切なくなる。そこから最終決戦とその先の結末にかけては是非一気に読んで欲しい。似たようなオチは読んだことあったけど、それでもすっげー鳥肌立った。読後感すっごいので、そういうのが欲しい人は読んでみてください。間違うことなきトゥルーエンドだ、これは。





 

秋期限定栗きんとん事件 / 米澤 穂信

ふたつめは、↑でもちょっと言及した米澤穂信の小市民シリーズ第3作目。どうせ読むなら1作目から読んで欲しいところですが、単発モノなら同じ作者で「インシテミル」や「ボトルネック」あたりもオススメです。「インシテミル」は割とメタミステリーっぽいところがあるけど、そんなに詳しくなくても楽しめます。「ボトルネック」は結末がえええって感じなので読む人を選ぶかもしれない、読後感はうぇぇぇ。

1作目の春期限定で主人公格ふたりの強烈なキャラクター性をいかんなく発揮し、2作目の夏期限定では驚愕のラストを見せつけたそこからのこの秋期限定。待たされたよ! 待った結果がこれだよ! 夏期限定まで読んで「えぇぇぇ」って思った人はもうほんと絶対読むべき、あそこで終わるのはもったいなすぎる。読んだ人なら帯の「小鳩君に、彼女ができました」の時点で「えぇぇぇ」って思うよね。

この人はメタミスっぽい展開を見せてくれる人なのだけど、今作でのミスリードのさせ方も素敵。推理小説でよくある、作者が読者に単純に間違いを誘発させようとしているってのとは違って、ちゃんとミスリードそのものが物語に絡んでくるの。必要悪。そして、改ページしての小佐内さんの最後の一言も素敵。ぞわーっとくる。女の子怖い! あ、まんじゅうも怖い。







凍りのくじら / 辻村 深月

「凍りのくじら」「子どもたちは夜と遊ぶ」「冷たい校舎の時は止まる」と連続で高校生・大学生ミステリーを読んでやっべーこの人すごいと思ったあとに、「太陽の坐る場所」「ゼロハチゼロナナ」と登場人物の平均年齢がぐわーっとあがってすこしだけついていけなくなった辻村深月。それでも筆力が半端ないのでぜんぜん読ませてくれるのだけども。

頭もよくて芯が強くて可愛い女子高生が、痛い男から離れられない痛いシチュエーションだけでもう心にぐっさり痛々しくて既に好きって思いながら読んでたら、全然それだけの話じゃなかった。大切な人と別れて、別れたあとにいなくなった人の気持ちが伝わるシーンがすごい。ヒロインのお父さんが写真家っていう設定をこれ以上ないくらいに活かしてると思った。そして、その別れが物語の終点じゃないのも素敵。すこし不思議な物語なのも予定調和とはいえ、美しい。いいなぁ、これ。

これは他の作品でもなんだけど、この人の描く主人公(女)は頭もよくて芯が強くてそして可愛いという設定が多くて、そこが好き嫌いを呼ぶような気はする。あと、人間の嫌な部分をほんと上手に嫌に描く。田舎で暮らす30歳超えた女性のどろっどろした感情をねちっねち描かれたのはうぇぇと思ったほんと、気持ち悪いくらいに上手い。

最近文庫化された「スロウハイツの神様」もよかった、よかったっていうか、泣きましたよ。最終章は反則に近い、あれ。予定調和でもいいんだよ、俺泣きたいんだもの。







世界は密室でできている。/ 舞城 王太郎

「阿修羅ガール」の最初の3行を立ち読みして何やねんこの作家はとか思って買ってしまったのが最初の舞城王太郎。「減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。返せ。」うん、全編こんな感じでほんと何やねんって思ったのです、むかしむかし。

「好き好き大好き超愛してる。」も世界の中心でなんとかを叫ぶへのアンチテーゼだとか偉い人がなんか言ってたけど確かに上手だし、「スクールアタック・シンドローム」もへえと思わされたけど、薦めるならどれよって言われたらこの「世界は密室でできている。」かなあと思う。一応ミステリーということでたくさんのくだらない密室が出てきて、まあそれはそれで面白いんだけど、なんていえばいいのだろう、この人の文体でラブコメっぽいことやられるとなんとも言えない幸せなものに見える。いっぱい人死んでるし、最初のほうで吉良吉影の爪コレクション以上にすっげー生理的に受け付けないエピソードあったりするけど、狂った世界だけど君らは幸せになってねって感じの終わり方で読後感グッド。文章書きたいとか思ったことある人は一度読んでおくとなんらかの衝撃があると思います。





 

夜は短し歩けよ乙女 / 森見 登美彦

むかしのテキストサイト界を一瞬彷彿とさせていややっぱりそうでもないなと思うような文体で有名な森見登美彦からは「夜は短し歩けよ乙女」を一押ししておきます。コミカライズもされました。

「太陽の塔」のくどい文体は超健在で、だけども本作では幾分か抑えられてるようにも思うのは主人公目線での文章とヒロイン目線での文章が混じってるからかもしれない。主人公は、まあ京大生文系ならこんな感じが標準なのかしらって思うような男の子で、ヒロインはなんかやけにふわふわしてる小さな女の子、いや、小さな乙女かしら。

春にサークルの飲み会のようなよくわからない飲み会で出会い、夏に古本市ですこし接近し、そして迎える秋の学園祭の話がほんっとに胸きゅんする。いや、俺が胸きゅんとか言っても気持ち悪いのは百も承知で言ってるんだ、察せ。まるで妖しのような登場人物たちが学園をところせましと駆け回って、よくわからない謎の演劇に巻き込まれた主人公とヒロインが屋上にて主人公とヒロインとして出会う瞬間はまさにご都合主義でありほんとにきゅんとした。そしてその熱量を引きずったのかそれとも風邪でダウンして冷めてしまったのかよくわからない冬の話ももうよくわからないんだけど、そうかそこに収まったかっていうすごくいい終わり。とりあえず読んで胸きゅんしてくるといい。話はそれからだよね!

この人の作品を読むと、本当に京都大学に行きたかったと思ってしまうよね。ああ、あの麗しい街並みと、なんかすごいことになってそうな寮とか。







鴨川ホルモー / 万城目 学

さてニ連続で京都モノ。というより京都大学モノかもしれない。京大行きたかったーーーーーって叫びたくなる、これも。なんで京都を舞台にした小説ってこんなに魅力的なんだろうね?

表紙のちょんまげにイロモノ感を禁じえないですが、中身は異形スポーツ根性モノ。ハリーポッターのク、クーなんとか?みたいなものに青春をささげる京大生たちの話と思えばだいたいあってる。俺が感情移入して泣きそうになってしまうくらい、この主人公、途中で悲惨な目に遭うのですがそこから復活しての最後の戦いの決着の付け方とかすこし鳥肌が立つくらいイイ。絶対に勝たないといけなくて、でも勝つんじゃないんです、勝ったら相手が大変な目に遭うことがわかってしまってるから。まさに試合に負けて勝負に勝つを地で行った感じ、上手だなあ。あと、とっても、長門だなあ。

っていうか、関係ないけど、ホルモン食べたい。みんなそう思うはず、タイトルの響きだけで。







容疑者Xの献身 / 東野 圭吾

ちらちらと東野圭吾の昔の作品を読んであんまり面白くなかった覚えがあって敬遠してたんだけど、これは読んどけって言われたのですごい軽い気持ちで読んでみたら、半端なかった。東野圭吾でまさか涙を流すなんて思ってもいなかった。くやしい…びくんびくん。最近涙腺が緩いからなんだからね…!!

ガリレオシリーズのひとつらしいけど、べつにシリーズの他の作品読んでなくても十分楽しめる。というか、俺がそもそも読んでないけど相当面白かったもの。

これだけタイトルが中身を表してる作品も珍しい。主人公が、人を殺してしまった女性を庇うというそれだけ聞くとよくある話なのだけど、読んでるうちに違和感を覚えはじめるはず。あれ、そんな些細なことで警察騙せるの…?って思いはじめる。けど実際に警察はそれでかく乱されているし、登場人物の女性もなんか変だなと気づきはじめる。解決編でその疑問がすべて氷解するわけだけど、容疑者Xの献身っぷりは本当に涙が出る。これは是非読んで欲しいところです。

話の途中でP≠NP問題がどうのこうのっていうくだりがあるのだけど、よくありがちな数学できるっぽさのくだらない演出かと思ったら実は本質にぐっさり刺さってました。これは文句なし。







隣の家の少女 / ジャック ケッチャム、 金子 浩(訳)

ずっと昔にふたばの読書スレでオススメされた本、やっとみつけました。同じときに「狼と香辛料」が推されてたのをなんとなく思い出した、まだ1巻しか出てない頃だよ、今思えばあいつら先見の明あるなあ。

そんな本作ですが、正直言ってこれは読むのキツイ、ページをめくるのが怖い、でも止まらない、そして終わった頃には体力がげっそりなくなってる。

隣の家に引っ越してきた女の子に主人公が一目ぼれするのだけど、そのうち隣の家では虐待が始まって主人公や他の男の子もやがてその虐待に参加することになって、最後には主人公が虐待されることになるという誰も得しない結末に向かって物語が続いていく。最初は肉体的虐待を与えるだけでそれだけでも心を保とうとする女の子が痛々しくてうぇぇなんだけど、終盤で性的虐待も加わるあたりではもうバッドエンドしか見えなくなる。

虐待憚においてはこの性的虐待の存在のせいで、男の子に対する虐待よりも女の子に対する虐待の方が吐き気がするほど気持ち悪くて印象に深く残ると感じるのですよ。性的虐待は肉体的虐待と時期をズラすことが可能であって、そうなると読んでる人は虐待そのものが始まったときと、性的虐待が始まったときの2回衝撃を受けることになるわけで、げっそり体力もっていかれるよね。 あとは年齢が高いよりも低いほうが無力感が強まって、脱出失敗時とかに読者がダメージうける度合いが強まるのは、みなさんご存知のとおり。

虐待描写以外で怖かったのは、虐待おばさんの狂っていく様子かな。きっと女の子がこのおばさんのコンプレックスを刺激してしまったわけだけど、天空の城ラピュタで「40秒で支度しな!」とか言ってそうなタイプの気のいいおばさんがこんなにおかしくなるとか、すごい印象深い。嫌な気分になりたいときに是非読んでほしい。2日くらいは引き摺れると思うよ。





 

クイックセーブ&ロード / 鮎川 歩

正直ぜんぜん期待せずに暇つぶしで読んだら俺好みだわ面白いわでほんとびっくりした。タイトルからしてバレバレなように、ループあるいはそれに準ずる話。俺そういうの大好きなのだけど、最近はループと見るやなんでもかんでもひぐらし扱いする風潮があったりでなんだかなあなのです。

主人公は自分の好きなタイミングでクイックセーブを行うことができて、自分が死んだときにそのセーブした地点にロードすることができるというちょっと鬱気味なハイパー特殊能力の持ち主。ロードするために自殺慣れしてしまっている主人公は実にラノベ的というか。

いつものように自殺しようとビルから飛び降りた主人公が偶然、幼なじみが飛び降りるシーンを目撃してしまい、ループ能力を駆使してなんとかしてそれを防ぐ、っていあらすじはそんな感じなのですが、前回とは別ルートを選んで情報収集する・前回との差異を見つけてどのイベントがどのイベントの原因になっているかを見極める、というループモノなら必須であるその作業が読んでいて面白い。
そして普通のループモノじゃなくて、クイックセーブ&ロード故に起きる問題。ロマサガみたいにいつでもセーブができるゲームを遊んだことがあったりする人や、クイックセーブのあるエミュレータを経験したことがある人なら読んでいて絶対に「ちょ、おい、落ち着けバカ」って絶対思ってしまうはず。個人的にはそこからの流れが簡略化されてて軽く感じるのがすこし残念部分なのですが、そこは想像力で補うとして終盤の展開の熱さと重さは思わず震える。解決に至ったときの爽快感はスゴイ。

続編も出ていて、そっちでも1巻の最後で提示される興味深いテーマが扱われております。ただ、事件自体がそんなに魅力があるわけじゃないので1巻と比べると微妙かもしれないですが、西澤保彦の「7回死んだ男」とかあんな感じのにドキドキしたことがある人なら間違いなく読んで損なし、読むといいですほんと。





  

一瞬の風になれ / 佐藤 多佳子

2009年最後の1冊はなんとスポ根モノ。テツヲさんのスポーツ嫌いは定評がありますが、実はスポーツ青春モノ自体は意外と好きなんです。特に野球、というかパワプロ、いやむしろパワポケ。あれをスポーツ青春と言っていいかどうかは疑問だけどさ!

そして、野球の次に好きなのが意外や意外、陸上(走るやつ)で、子どもの頃に「奈緒子」という駅伝マンガを読んでなんか泣いてた覚えがあります。1冊10分で読めてしまうのも陸上のスピード感と言ってしまっていいのかもしれない。

サッカーから陸上に転身した主人公と、陸上から3年ぐらい離れていた走る天才な親友を主軸にまあひたすら走る物語です。100メートル、200メートル、4継(400メートルリレー)などそれぞれの種目まったく別の熱さが丁寧に描かれてて、陸上知らない俺でも知ったかぶりできそうなぐらい。そんな中で走りながら青春ドラマして、最後には主人公たちは遥か高みまで走っていく。ひねた見方をすれば「努力した天才はそりゃ努力した凡才より強いだろ」ってことになっちゃうのかもしれないけど、天才の努力もなあなあじゃなく描かれてるし、やっぱり王道っていうのは気持ちいいものなんだよね。ということでみっちり積みあがっていく読後感の良さを求めてる方にはオススメなのでした。
[2010.01.31 23:59] | [m]emo  |  TOP↑