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はじめは単純に医者になろうと思った。けれどすぐに挫折した。それなりに勉強はできたけれど、僕より遥かに優秀な本当に頭のいい連中が毎年もの凄い数が医者になって研究し続けてそれでもアオイナの病気を治す方法は見つかっていない。いつかは医学的に見つかるのかもしれないけど、それではアオイナには間に合わない。だから挫折した。次に魔法使いになろうと思った。そんなに突飛な話じゃない。魔法でアオイナの掛かった病気の治療法を見つけることはできないだろうけど、アオイナひとりを治すことなら無理じゃないはずだって、思ったんだ。

中学校に入る頃には、僕はもうそこそこの魔法使いになっていた。あと何ヶ月も修行すればアオイナを治す魔法も唱えられそうだというところまで僕は強くなった。でもアオイナの病魔はとても強烈で、アオイナの病気を治す魔法を使った僕は多分もう魔法を使えなくなってしまうことを、未来を見る魔法で僕は理解していた。

アオイナが健康になるなら、僕の魔法なんて使えなくなってもいい。もともとアオイナのために覚えた魔法だ。そこに何の葛藤もない。だけど、健康になったアオイナを待っているのは信じられないほど過酷な運命だった。例えば僕が魔法を使う時期によって、アオイナはクリスマスイブの朝に僕へのプレゼントを握り締めたまま交通事故で死んだし、学園抗争に巻き込まれて不良たちに強姦されてそのまま死んだし、たまたま居た喫茶店でテロルに巻き込まれて死んだし、信じられないほど醜悪なストーカーに監禁されて筆舌に尽くすほどの屈辱を受けたあげく死んだし、とにかくもう、どれだけ僕がアオイナのために魔法を使っても、それこそ何か強力な呪いを前世で受けたりしたんじゃないかとしか思えないほど、アオイナの死に方はいつも酷い死に方だった。

アオイナは今日も病室で苦しんでいる。手を握ってきたから強く握り返したし、震えていたから思いっきり抱きしめた。アオイナの目を覗くのはつらい。けれど目を逸らしたらアオイナは絶望してしまうから、僕は絶対に目を逸らさない。

苦しむアオイナを見るたびに僕の精神は磨耗していく。魔法を使ってこの地獄から助けてあげたくなる。だけど、その先にアオイナの未来がないことを知っている僕に、魔法を使うなんてできるはずがない。

歯を磨いているとき、ご飯を食べているとき、授業を受けているとき、布団に入ってるとき、ずっとアオイナのことを考えている。どうしてアオイナはどう足掻いても幸せになれないのだろう。アオイナが幸せになる道がないか、僕は必死に探している。だけど、どんな未来も、結局僕が目を逸らさざるを得なくなるほど酷い未来だ。考えることは苦しい。全部投げ出したい。どうしてアオイナは病に冒されていて、僕は魔法を覚えてしまったのだろうね。

僕はズルい。もしもアオイナがわたしを治してって口に出せば、何も考えず何も言わずにアオイナを治してしまうつもりだ。僕はそのまま存在を消すんだ。だって、アオイナがどんな不幸な死に方をするのかを知らない、知りたくもない、考えたくもない。そのときの僕はアオイナのためにやれるだけのことはやったと自分に言い訳をしながらアオイナと一生関わらないところで生きていくことになる。アオイナの瞳を見つめ返すとき、どこかそんなことを考えている自分がいる。それも含めて自己嫌悪になる。そこにあるのは、絶望だよ。

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きっかけはほんとほんっとに些細なんだけど、そんなものです。

いつものよに暇になったあたしは幼なじみの部屋で、テスト勉強に勤しむ彼を横目に足をばたばたしながらゲームをしてた。微分の応用問題で彼が躓いてウンウン唸ってるのが見えたので、そんなんじゃ物理学科受からないんじゃないのっていじわるを言いつつ、女神のようにやさしいあたしは教えてあげることにした。ゲームしながら。彼はその時点でもう不機嫌だったけど、あたしも今日こそは格ゲーでぜったいリベしたかったので、まだおわんないの？遅いよばか、ていうかあたし明日先輩とデートなんだけどってぶーぶー言ったところで彼がぷっつんする音が聞こえた。あ、キレた。

「うるせーよ、なんでもかんでも魔法で上手くいくんだから大魔法使いはいいよな！」

ぷっつーん。今度はあたしがキレた音。いまにして思えば大人げないかもしれないんだけど、でも反省はしてない。魔法使いは大変なんだ。魔法を維持するために毎日どれだけ苦しい瞑想をしているかも知らないくせに。魔法で望んだ結果を得ることがどんなに大変なことか知らないくせに。魔法のこと、あたしのこと、なにも知らないくせに。

そのときのあたしは、魔法使いがどれだけ大変か、彼に叩き込まないと気が済まなかったのです。だからあたしは彼にちょっとだけ長い悪夢を見せてあげることに決めた。マジカル★リリカル☆ふろくしのーしないひりぴりふぃけいしょん！


彼はいま、魔法使いになった夢をみてる。
その隣であたしが、魔法なんて使えないけど絶対に諦めない女の子の夢をみてる。魔法なんて使えなくても、女の子は、強いんだから。

>>恋する大魔法使い